和す
ものともの、心と心の溶けあいの妙。過不足なく宜しき。
人が心と心を通わせることを自国の呼び名である「和」と表現する私たち日本人は、ものとものの、その美しさや機能や意味が調和を以て融合することもまた「和」と呼びます。「和」とは、人にあっては、穏やかで仲良きこと。ものにあっては、その調和の形が過不足なく宜しきこと。そして自然の事象風景にあっては、のどかでたおやかであること。人の社会にあっては、平らぎ、温か。
万物すべての混合と融合こそ、最も尊いとする日本人の自然観や価値観は、暮らしや風景を彩るささやかなものたちにも、トータリティとしての「和」の意味づけを行います。
茶室の床に飾る一輪の花。
それは、室礼としては唯一有機的なものとして、生きた人間の心と心を混ぜ合わせ融合する手段として扱われます。さらに、室内という人工の空間と世界に外界のイメージを取り込み、自然と人、ものを調和させる最小限のメディアでもあります。
“トータリティとしての価値”であるために、花も道具も、そして人も「過不足なき宜しき」美しさで、そこに在るのです。「和す」思想、それは日本人の美意識、自然観であるだけでなく、人間の思惑では計り知ることができない、まったく新しいものの価値をも生み出す力もまた備えているのです。