重ねる
重ねの思想は、
和風の原点
奈良時代、中国から伝わった唐文化は、平安初期になって唐との国交が途絶えると、文化の風潮は国風尊重の気勢に変わり、典雅優美な和風の美意識が生まれました。平安時代に完成したといわれる"重ねの文化"は、和風文化の原点として今もなお、私たちの暮らしの中に息づいています。和服に見る色と色との重なりはもとより、『室礼(しつらえ)』といわれる調度品の配置の仕方、食器や茶碗の類にまで"重ね"の思想が尊ばれ、活用されます。
いわゆる『とりあわせの美や妙』は、自然をテーマにしながらも、そのテーマにそれぞれの持つ意味やイメージが美しく重なりあって、その重なりの微妙な違いを楽しむという高度な美意識に支えられているのです。この重ねの思想は、日本の建造物などにみる引き戸やびょうぶ、食器や調度品のお重や入れ子、衣類の襲色目(しゅうのいろめ)、というように様々な形で日本の生活文化となって現代に伝わっています。
たとえば、京料理のベースともなった懐石料理は、素材と素材の微妙な重なりのハーモニーを楽しみ、向付に始まって。『お湯』と呼ばれるぶぶづけにいたるまで見事に計算された味の重なりの妙を堪能できます。その上に食器や香り、部屋のしつらえまでをもひとつのテーマに重なり合わせて、人と人(主と客)が心を重ねる演出をするのです。この"重ねの思想"は京の庶民が毎日食べるおかず=おばんざいの中にもしっかりと残っています。そして、このおばんざいも『お数』として、数を重ねて食することに意味を見出していたのです。